春先の入院  〜あけび掲載 (平成十九年七月号)

寝ぬるのみただ寝ぬるのみされどわが痛みは去らずただ耐えに耐ゆ/足裏ゆ火の噴き出づと思ふ間に紅蓮の炎はわが身を包む/ただごとと思へず主治医に繰り返し急(せ)きて訴へ入院を決む/わが耳の内に蝉の音聞こゆるをうつつと思ひふと外を見る/窓の外の枯れ木のあはひに透きみゆる多摩の河原のハングライダー/病室の窓より見ゆる裸木の梢越しなる新二子橋/病院に二期会の歌手ら二人来て歌ひ聴かする唱歌なつかし/絶間なく相を変へゆく「城ヶ島の雨」にしましを聞き惚れをりぬ