冬橙  〜あけび掲載 (平成十九年四月号)

駿河なる母の実家に橙のひと本はあり実はたわわならむ/ずつしりと手なる重みに親しみしゆゑか懐かし橙の実の/故郷のならひなりしか橙を冬の夕餉にさまざま活かす/橙の実は不思議なり落ちもせで夏近づけばまた蒼くなる/祖母よりし蜜柑の箱の届くたび忍ばせくれし橙いくつ/ポンスとはそも蘭語にて橙の汁とは知りてそに驚けり/橙の木を植ゑまほし庭しあらば植ゑざらめやは苗木を買ひて/鱈や牡蠣そを橙を垂らしたる醤油にとりて喰ふは幸福