頸椎の手術を待ちつつ −九段坂病院にて−
  〜あけび掲載 (平成十八年七月号)

大波にかく揺らるるもむべならむまことにわれは蛭子なりせば/葦舟にのせて流されゆく先を蛭子は知らず何処の岸か/わが胸の奥深くなる水脈を掘りあつるとき歌のうまるる/別れたる妻との間の地獄絵をいま病院の夢にまた見つ/焦りたる我とは別の誇りもてはだかる汝にいよよ焦れり/いさかひの果てなる地獄の阿鼻叫喚覚むれば足の灼くる痛みか/眼にまろき「無影灯」の映りゐてわれ生くるらし手術終りぬ/昏きより還り来ればわがいのち確かにありて呼吸の重き