堅田に寄りて

大阪に来しついでにと近江なる堅田の里にふと立ち寄りぬ/叡山を左に見つつ湖岸沿ひこのあたりこそめざす堅田か/国道を入ればそこなるたたずまひ鄙びし中に堅田のみやび/あまたなる歴史の風雪くぐりたる堅田の暮らし今も残れり/風情あるやなみの続くその角にひともとの藤えをひろげたり


臥せゐしにゆかしと思ふ藤の花けふ堅田にて盛り見むとは/しづかなる寺社集まりし街の中かほりほのかに家々の建つ/車椅子押されてゆきし寺の門そこより見ゆる庭のうるはし/緑なす若葉のなかにもみぢせるかへでのごとき木の二本見ゆ/寺を出で門の脇なる碑をみれば一休和尚修養の地とぞ


ふるきより水運により栄へゐし堅田の賑はひいかばかりならむ/いにしへは水運物流の要なる堅田の民の自治伝ふ社/路地おほき堅田の街の軒にさく枝いっぱいの白き小手毬/一向宗ゆかりの寺につたはりし話にうかがふ山との争ひ/この首を切り落さむとせる像のありかかる漁民の伝説あはれ


叡山の僧に追はれし本願寺ひととき置きし寺のありたり/本願寺ゆかりの寺にひびきゐし子らの歓声託児所なりき/こを負ひてかへりしきはに本堂を拝せし母の白きくりやぎ/浮御堂その近くなる湖岸にて釣糸たれし少年ひとり/湖にわたれる風の冷えゆくに水路に釣りする子らのありたり


釣りしたる子に尋ぬればギルといふ外来魚なり「たくさんいるよ」/うちうみに漁船のあまた泊まりをりかつて栄えし港の名残り